あまりに非常識で不都合な声
そんな鬱々とした想いに苛まれていたある日、船のデッキからはるか彼方まで続く大海原を眺めていると、ふと次のような内なる声が心の中で響くのが聞こえました。「Itʼs time to move on 」。 なぜかその時聞こえたのはそのような英語の言葉だったのですが、これは直訳すると「今こそ次に進む時だ」という意味になります。これだけでは普通、何のことだかわからないと思いますが、その時自分にはそれが何を意味しているのかが直感的にわかりました。それは、「コーチングの仕事を手放しなさい」ということです。
それに対して、頭は「まさか、そんなことできるはずがない」と反論しました。それは、当時の自分にとって、あまりにも非常識で、かつ不都合な声だったからです。会社としてはようやく基盤が整ってきて、まだまだこれからという時期でしたし、そんな時に創設者自らが、しかも3ヶ月も休みをもらって、やっと帰ってきたと思ったら「辞める」というのは、さすがに自分でもあり得ないことでした。
もちろん、その声に耳をふさぐという選択肢もありましたが、アメリカに留学する時に「これからは内なる声に従って生きる」と決め、それにずっと従ってきたからこそコーチングとも出会えたことを考えると、今さら自分にとって不都合だという理由だけでその声を裏切ることはどうしてもできませんでした。
ただ、その翌年には、新たに資格コースやリーダーシップ・プログラムという新しいプログラムをCTIジャパンとして初めて開催するという計画があったこともあり、1年間の猶予を自分に与えることにしました。途中、本当に手放していいのか迷いが出ることも正直あったのですが、幸いにして「この人なら後を託せる」と思える人が見つかり、同僚の理解と協力も得られたことから、予定通り、1年後の2003年末にCTIジャパンの代表を退任し、その経営から身を引くことになりました。