Episode03_出版をきっかけに、会社を設立

Contents
  • 思いがけず売れた本
  • 予定になかった会社の設立
  • あえてコーチングの方に舵を切る
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思いがけず売れた本

アメリカ留学から帰国してしばらくの間は、留学中に開発した天職創造セミナーというワークショップ形式の参加体験型プログラムを実施し、それに参加してくれた人たちの中で希望者に対してコーチングを提供するという個人ビジネスを細々とやっていました。そのうち、参加者の人たちから「天職創造もいいけど、コーチングもおもしろそうだから、ぜひ教えてもらえないか」という要望をいただくようになりました。

そこで、勉強会形式でコーチングを教えるようになったのですが、そうこうするうちにどこで噂を聞きつけたのか、人材教育系の雑誌でコーチングに関する記事を書いてほしいと頼まれたり、研修会社からコーチングに関する講演や研修をしてほしいと頼まれたりするようになりました。

そんな中、CTIの創設者たちが自ら標榜する「コーアクティブ・コーチング」についての本を出版することになり、私もその日本語版をぜひ日本で出版したいと思い、つてを辿っていくつか出版社を回りました。そして、ある出版社を訪ねた時、「うちはあまり翻訳ものはやってないんだけど、テーマがおもしろそうだから、もしあなたが書くんだったら企画を上げてみてもいいですよ」という、思ってもみない話が突如として降ってきたのです。

結局、企画は通り、ビジネスという文脈でコーチングについての本を書くことになり、1999年の夏に『部下を伸ばすコーチング』が出版されました。初めて書いた本でしたが、タイミングがよかったのか、最終的には10万部以上とビジネス本にしてはよく売れ、様々なところから続々と講演や研修の依頼が入るようになりました。「うれしい悲鳴」とはまさにこのことで、これはとても1人では対応できないと感じ、CTIの創設者たちに相談した結果、その翌年にCTIのコーアクティブ・コーチング・プログラムを日本で提供することになりました。以前から、いつかはCTIのプログラムを日本でやりたいと薄々思ってはいましたが、本が出版され、予想外に大きな反響があったことがきっかけとなって、その想いが実現することになったのです。

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予定になかった会社の設立

ただ、最初からコーチングを事業化することを考えていたわけではありませんでした。とにかく1回、CTIのプログラムを日本でやってみたかったというのが正直なところだったのです。その証拠に、CTIジャパンという会社を立ち上げたのは最初のコースを開催した2000年5月から2ヶ月ほど経った7月になってからのことでした。

自分自身、CTIのコースを受けて人生が変わったと思っていたので、そのすばらしいプログラムをぜひ日本の人たちとも分かち合いたいという想いだけで、あまり先のことまでは考えていなかったのです。

ところが、コーチング・プログラムの最初のコースである基礎コースを2回ほどやってみたところ、参加した人たちから「次の応用コースはいつやるんですか?」という声が挙がり、「これは大変!」ということで、慌てて会社をつくったというのが実情なのです。そもそも自分が会社をつくるということ自体、思ってもみないことでした。

CTIジャパン初期の頃のワークショップ風景

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いざ会社をつくるとなったら、やれ人は雇わないといけないとか、やれ事務所を構えないといけないといったように、何かと面倒なこともたくさん発生してくるし、私としてはこれまでのように個人事業主として自由気ままにやっている方が性に合っていると思っていました。

さらに、会社をつくるとしたら、これまでやってきた天職創造セミナーをいったん棚上げして、コーチングの事業に専念する必要があると感じていました。なにぶん、会社をつくり、それを経営するというのは初めてのことなので、何かをやりながらその片手間にやることは無理だと感じていたからです。それは、会社をつくるということと合わせて、私にとってはとても大きな決断であり、挑戦でした。

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あえてコーチングの方に舵を切る

でも、あえてその道を選んだのは、一言で言うと、「流れ」が来ていると感じたからでした。

天職創造セミナーの参加者から挙がった「コーチングを教えてほしい」という声を発端に、「コーチングについて記事を書いてほしい」「コーチングについての講演や研修をしてほしい」という話が増えてきて、ついにはコーチングについての本まで書くことになり、思いがけずその本が売れるという一連の出来事が、すべて自分をコーチングの方に「仕向けている」ように感じたのです。

一方、それまで天職創造セミナーに参加してくれた人たちの中から希望者に対してコーチングを提供していたわけですが、一時にコーチングできる人はせいぜい20人くらいであり、コーチングができる人がもっと世の中に増えない限り、自分のセミナーに参加してくれた人たちですら満足にサポートできないと思ったことも、コーチングの方に舵を切った1つの理由でした。

自分がそれまでやってきたことを手放し、会社をつくるという未知の領域に足を踏み入れることには恐ろしさもありましたが、上記のような「流れ」を信じ、それに逆らわず、あえてその流れに乗ってみることにしたわけです。

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そして、その決断によって、私の人生はその後さらに思いがけない方向に展開していくのですが、それは結局、自分では気づかなかった自分自身の可能性に気づく大きなきっかけとなりました。そういう意味で、今振り返ってみると、流れが来た時には、それに乗ってみると、自分が予想したのとはまったく違う形で人生の扉が開かれていくということを改めて実感しています。

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Key Message 流れに乗ると、思いがけない形で人生の扉が開かれる
Episode04_ピースボートに乗り、会社の経営から身を引く