新しい物語を求めて
CTIジャパンの経営に戻るといっても、現場からは6年以上も離れていたので、状況は以前自分が経営を担っていた時に比べてかなり様変わりしており、自分に何ができるのかまったく自信はなく、勝算もありませんでした。ただ、自分が何らかの理由で今そこに必要とされているのだと信じ、とにかくやれることをやろうと考えていました。
数字の面だけで見れば、CTIジャパンはそれまでの数年間、売上が伸び悩んではいたものの、経営的な危機とまでは言えない状態でした。しかし、必ずしも数字には表れない部分で危機的な状態にあると私は感じていました。それは、強いて言えば「物語の喪失」とでも呼ぶべき状態です。
ある事業が存続し、発展していくためには、それに関わる人たちが共感し、共有できるような物語が必要だと私は考えています。もちろん、物語と言ってもいろいろありますが、その中でも特に「何のために自分たちは存在するのか」に関する物語が必要で、それは自分たちの成長や環境の変化に応じて常に更新し、進化させていかなければならないものだと思っています。そういう意味で、CTIジャパンも創業から10年が経ち、最初の頃の物語はもはやその瑞々しさを失っているように思われたのです。
では、どうやって新しい物語を紡ぐのか? そのためにはその事業に関わる人たちの間で「対話」を重ねるしかないと考えた私は、CEO着任後、とにかく徹底的に対話の場をつくることに注力しました。