Episode06_長い冬を乗り越えて、2つの市民運動と出会う

Contents
  • 辛かったフィンドホーンでの2年半
  • チェンジ・ザ・ドリームとの出会い
  • トランジション・タウンとの出会い
  • 共通点は「エンパワー」
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辛かったフィンドホーンでの2年半

フィンドホーンでは2年半ほど過ごしましたが、それは自分にとってかなり辛い時期でもありました。というのも、「そこに行けば何かあるはず」と信じて、明確なあてもなく行ったわけですが、待てど暮らせど「これ」というものがなかなか見つからなかったからです。

もちろん、何もせずにただ「何か見つからないかな」と受け身で待っていたわけではなく、少しでも自分の心の針が振れるものがあれば、一も二もなく飛びつくようにしていました。まさに「溺れる者は藁をもつかむ」状態で、あたかも天から垂らされた蜘蛛の糸が切れないように祈りながら引っ張っては切れ、引っ張っては切れるということを繰り返していました。

これがCTIのコーチングに出会う前の留学時代のように、一度も「これ」というものに出会ったことがなく、自分がやりたいと思っていることと実際にやっていることが完全に一致した時の何とも言えない高揚感をまだ知らない頃であれば、これほど辛くはなかったと思います。しかし、一度その高揚感を味わってしまうと、それが感じられなくなることがこれほど苦しいものだとは夢にも思いませんでした。

もしかしたら、自分はもはやこの人生で果たすべきことをすでに果たし終えてしまい、天から「お役御免」にされてしまったのではないか?  という、今思えば笑ってしまうような不安にしばらく取りつかれていました。これが自分1人ならまだいいのですが、今回は英語を話せない妻と年端もいかない娘を一緒に連れてきていたので、彼女たちにこんな苦労を強いてまで何も見つけられなかったら目も当てられない、という焦りがさらに苦しみを大きくしていました。

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チェンジ・ザ・ドリームとの出会い

しかし、「朝が来ない夜はない」「春が来ない冬はない」と言うように、2007年の春を迎えた頃から、少しずつ状況が変わり始めました。チェンジ・ザ・ドリーム*(以下、略して「チェンドリ」と呼ぶ)に出会ったのも、ちょうどこの頃でした。

あるイギリス人の友人と電話で話していた時、「今度おもしろそうなプログラムに参加するの」と言うので、内容を聞いてみると、確かにおもしろそうだったので自分も一緒に参加させてもらうことにしたのです。しかし、実際に参加してみると、プログラムの趣旨にはものすごく共感を覚えたものの、プログラムの中身や進め方に関してはまだまだ改善の余地があるというのが正直な感想でした。

CTIなどの仕事を通じて参加体験型のプログラムを数多く経験してきたこともあって、細かい部分を含めて気になることが多々あり、余計なお世話とは思いつつ、プログラムの終了後に主催者に対していろいろとフィードバックをさせてもらいました。

すると、「あなたはなかなかいいフィードバックをしますね。実は、今度ファシリテーター・トレーニングというのがあり、そこにこのプログラムをつくった人たちがアメリカから来るので、よかったらそれに参加してあなたの考えを彼らに直接伝えていただけませんか?」と言われたのです。

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なんだか逆手に取られた感じがしましたが、これも「乗りかかった船」ということで受けて立つことにしました。そして、その1ヵ月後に開催されたファシリテーター・トレーニングでこのプログラムをつくった2人のアメリカ人と出会うのですが、2人とも人間的にとても深みがある素敵な人たちで、それまで「趣旨はいいけど、中身が薄い」と思っていたチェンドリに対する見方も変わりました。かといって、すぐに自分でそれをやってみようと思ったわけではなく、いずれ日本に帰ったらやってみようと思い、それまでは自分の中でしばらく温めておくことにしました。

*チェンジ・ザ・ドリーム・・・2005年にアメリカの非営利団体パチャママ・アライアンスが開発したプログラムの名前であると同時に、そのプログラムを中核に据えた市民運動の総称でもある。「地球上のすべての人が、環境的に持続可能で、社会的に公正で、精神的に充実した生き方を実現する」ことを目的としている。

ファシリテーター・トレーニングでつくった祭壇
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トランジション・タウンとの出会い

もう1つ、確かこのファシリテーター・トレーニングの場で耳にした1つの言葉がずっと気になっていました。それはトランジション・タウン*(以下、略して「トランジション」と呼ぶ)というイギリス生まれの市民運動でした。

何がそんなに気になったのか今となっては思い出せませんが、ずっと心に引っかかっていたところ、その年の11月にロンドンで開催されるあるカンファレンスでトランジションの創始者が講演を行うという情報を聞きつけ、それに参加することにしました。そして、実際に彼の話を聞いてみると、まさしくそれは自分が求めていたものだということがわかり、居ても立ってもいられなくなったのを覚えています。

翌年の正月に日本に一時帰国した際、4年ほど前にパーマカルチャー ** のコースで知り合った仲間たち3人とたまたま会う機会があり、彼らにトランジションの話をしてみました。どうしてパーマカルチャーの仲間に声をかけたかというと、もともとトランジションはパーマカルチャーの考え方を土台にしているので、もしかしたら彼らにはその魅力が伝わるかもしれないと思ったからです。

案の定、彼らは興味を示してくれ、その年の3月にフィンドホーンで開催されるあるカンファレンスでトランジションの創始者が再び講演する予定であることを伝えると、3人ともそれに合わせてフィンドホーンまで遊びに来るという話がほぼその場で決まってしまいました。

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はたして3月になってフィンドホーンにやってきたその3人の仲間たちは、創始者の話を聞くと、「いいね、これは」という話になり、6月に私が日本に帰国したら、さっそく一緒にトランジション運動を日本でも立ち上げよう、ということで大いに盛り上がりました。

*トランジション・タウン・・・2006年にロブ・ホプキンスによってイギリス南部にあるトットネスという町から始まった市民運動。「トランジション」とは「移行」を意味し、石油を始めとした化石燃料に過度に依存した暮らしから、もともとその地域にある資源を活かした持続可能な暮らしへの移行を、市民が自発的に自らの創意工夫によって実現していくことを目指している。

*パーマカルチャー・・・オーストラリア人のビル・モリソンとデビッド・ホルムグレンによって構築された、人間にとって恒久的で持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系。パーマカルチャーという言葉は、パーマネント(permanent 永久の)とアグリカルチャー(agriculture 農業)をつづめたものであるが、同時にパーマネントとカルチャー(文化)の縮約形でもある。

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共通点は「エンパワー」

このように、チェンドリとトランジションという2つの市民運動にほぼ時を同じくして出会ったわけですが、これらはともに「人の可能性が最大限に発揮されるような社会とはどのようなものか?」という、私をそもそもフィンドホーンに導いた問いに対する1つの答えを提示してくれていることにしばらく経って気づきました。

そして、それと同時に、CTIのコーアクティブ・コーチングを含め、私が心惹かれたこれら3つの活動は、一見関係がないように見えて、実は「エンパワー」というキーワード、すなわち「それが持つ可能性が最大限に発揮されるようサポートすること」を目指している点で共通しているということにも気づきました。

コーチングの場合、エンパワーする対象は「個人」であり、トランジションの場合は「地域」であり、チェンドリの場合は「一般市民」であるといった具合に、対象がそれぞれの活動で異なるだけでエンパワーするという目的においては皆、同じ線上にあるものだったのです。

ここで大事なことは、これらのことを私が順を追って計画的にやってきたわけではなく、ただただ自分の内なる声に従ってやってきた結果、あとで振り返った時に、そこに1本のまっすぐな道ができていた、という事実です。

私は、人は誰しも何らかの目的を持ってこの世に生まれてくると信じていますが、自分の場合はきっとそれが「エンパワー」ということと大いに関係しているのでしょう。

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Key Message 人は誰しも、何らかの目的を持って生まれてくる
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